奈良を歩く~導かれて
奈良町の先に高畑という所がある。
ならんちゅという盟友のおかげで、奈良は比較的よく訪れていた私だが、歩けども高畑は、遠い異国の世界のようであった。
しかし、坂の街での出合いが、私の行路を新しく開いたのは、今から半年前の初秋だった。
私は、その旅の終盤をむかえた時、最寄りの駅で電車を降りて、書店へ駆け込んだ。
手に取ったのは「暗夜行路」その一冊であった。
白い吐息が、さ迷う街を幾分進んだことだろうか。荒池を抜けて浮見堂にさしかかった私は、洞水門の響きに耳を澄ましていた。琴の音色は、静かな湖面に同調して、檜皮葺きの六角形は、物語の情景を濃くしていた。
浮見堂の南側の小路を抜けると、東大寺南大門へと続く道にでた。私の横を人力車が抜けていく。
奈良公園を外れたこの辺りまでやってくると、ほとんど観光客の姿が見られない。私には、丁度それが心地良かった。もとより賑やかな所は苦手である。
敷地の立派な家屋が軒を連ねる高畑裏大道を進むとやがて十字に道を切った角に志賀直哉旧居はあった。
受付の見当たらないままに、恐る恐る玄関から踏込みへと上がると、廊下の手前に受付けがあった。
私は、順路に沿ってまず2階へ登ると、いきなりその時は訪れた。6帖の小さな和室こそ名作「暗夜行路」
が完結した場所だったからだ。
体は、暫く廊下の床板の冷たさも忘れて部屋の中央に置かれた机を見ていた。
広大な敷地に、この豪邸は、ほぼ平屋と言っていい。しかし、暗夜行路を執筆した和室と、その隣の客間だけは2階建てになっていた。
1階へ降りてきた私は、この屋敷の特殊な造りに驚かされた。本格的な茶室があるかと思うと、現代の住宅事情ですら珍しいサンルームがあったりと、昭和初期の建物としては、ハイカラの匠といえよう。
家族の食卓
まるでカフェのようなサンルーム
まるで、カフェのように見えるサンルーム、当時の文化人が集まり意見を戦わせたそうである。
通称「高畑サロン」
屋敷を一周するコースは、やがて広縁から庭へ続く。特に目を引くのが子供のために造られたプールである。
コンクリート製の小さなプールは夏の水遊びにはうってつけの代物だ。
南の庭から東側の建物伝いに北の庭へ通路を行くと、そこは南の庭と様相をがらりと変えて池を囲むように日本庭園が広がる。ちなみに言っておくとこの邸宅には、もう一つ広大な中庭も存在する。
中門を抜けると玄関の前へ出てきた。うまく構成されたルートに、私は、小説を読み終えた時に似た気持ちになったのだった。
ささやきの小径の先へ続く
ならんちゅという盟友のおかげで、奈良は比較的よく訪れていた私だが、歩けども高畑は、遠い異国の世界のようであった。
しかし、坂の街での出合いが、私の行路を新しく開いたのは、今から半年前の初秋だった。
私は、その旅の終盤をむかえた時、最寄りの駅で電車を降りて、書店へ駆け込んだ。
手に取ったのは「暗夜行路」その一冊であった。
白い吐息が、さ迷う街を幾分進んだことだろうか。荒池を抜けて浮見堂にさしかかった私は、洞水門の響きに耳を澄ましていた。琴の音色は、静かな湖面に同調して、檜皮葺きの六角形は、物語の情景を濃くしていた。
浮見堂の南側の小路を抜けると、東大寺南大門へと続く道にでた。私の横を人力車が抜けていく。
奈良公園を外れたこの辺りまでやってくると、ほとんど観光客の姿が見られない。私には、丁度それが心地良かった。もとより賑やかな所は苦手である。
敷地の立派な家屋が軒を連ねる高畑裏大道を進むとやがて十字に道を切った角に志賀直哉旧居はあった。
受付の見当たらないままに、恐る恐る玄関から踏込みへと上がると、廊下の手前に受付けがあった。
私は、順路に沿ってまず2階へ登ると、いきなりその時は訪れた。6帖の小さな和室こそ名作「暗夜行路」
が完結した場所だったからだ。
体は、暫く廊下の床板の冷たさも忘れて部屋の中央に置かれた机を見ていた。
広大な敷地に、この豪邸は、ほぼ平屋と言っていい。しかし、暗夜行路を執筆した和室と、その隣の客間だけは2階建てになっていた。
1階へ降りてきた私は、この屋敷の特殊な造りに驚かされた。本格的な茶室があるかと思うと、現代の住宅事情ですら珍しいサンルームがあったりと、昭和初期の建物としては、ハイカラの匠といえよう。
家族の食卓
まるでカフェのようなサンルーム
まるで、カフェのように見えるサンルーム、当時の文化人が集まり意見を戦わせたそうである。
通称「高畑サロン」
屋敷を一周するコースは、やがて広縁から庭へ続く。特に目を引くのが子供のために造られたプールである。
コンクリート製の小さなプールは夏の水遊びにはうってつけの代物だ。
南の庭から東側の建物伝いに北の庭へ通路を行くと、そこは南の庭と様相をがらりと変えて池を囲むように日本庭園が広がる。ちなみに言っておくとこの邸宅には、もう一つ広大な中庭も存在する。
中門を抜けると玄関の前へ出てきた。うまく構成されたルートに、私は、小説を読み終えた時に似た気持ちになったのだった。
ささやきの小径の先へ続く
by travel2013
| 2013-01-22 18:29
| 奈良紀行